独り暮らしの高齢者や近くに親族などがいない高齢の夫婦二人暮らしの方々にとって、身体能力や判断能力の低下によって自分自身で日常生活を送ることが困難になることはあまり考えたくないことかもしれません。しかし、こうした事態に備えて、予め任意後見契約を信頼できる人(受任者という立場になります)と結ぶことは一定の安心感を得るのではないでしょうか。
ただ、任意後見契約を締結しただけではご本人(委任者の立場になります)の現在の生活には基本的には何も起こりません。あくまでも相手方は任意後見契約の受任者の立場ですから、積極的に何かを行うという類のものではありません。任意後見人として動くためには、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することが必要です。選任した時から任意後見人は後見事務を始めることができるようになります。結果、任意後見契約の委任者が受任者と再会するまで何年も経過していることもあり得ることです。
以上述べたように、任意後見事務を行う上で、任意後見監督人の選任のタイミングはとても重要です。
そこで、任意後見契約が始まるまでに、委任者が受任者と接点がなくならないようにするために、家族以外を受任者とする場合は見守り契約を締結する必要性は高いです。
見守り契約の目的は、受任者が定期的に委任者に電話で連絡したり、面会したりすることで、委任者の健康状態や判断能力を適切に把握することです。定期的な接触により、認知症の兆候や身体の不調に気づくことで、任意後見監督人の選任申立を家庭裁判所に適切なタイミングで行うことができます。任意後見契約を結んだらすぐに見守り契約も行った方が良いように思います。
見守りの頻度については、面会は数カ月に一度くらい、電話やメールなどによる状況確認が月に一、二回くらいというふうに回数を決めることができます。定期的に会うことで、困りごとを聞いたり、今後の生活を考えるうえでエンディングノートをどのように書いたり、見直していくかなどの相談も受けることができるでしょう。
見守り契約の他に、財産管理委任契約を締結する場合もあります。財産管理委任契約を締結する段階ではまだ判断能力があっても、身体能力の低下により、自分自身で銀行などへ行くことができない場合に活用できます。ご自分の財産管理を任せることになりますから、見守り契約より一層慎重に受任者を選ぶ必要があります。
社会福祉協議会は日常生活自立支援事業(東京都での名称は地域権利福祉擁護事業)を行っています。見守り契約や財産管理委任契約と共通する点が多いので、将来の不安を解消するための手段としての選択肢として検討に値するのではないかと思います。
東京都福祉局ホームページに地域福祉権利擁護事業についての説明がありますので、内容を以下に要約します。
支援を受けるために、本人と社会福祉協議会の間で契約を結ぶと、支援計画に基づき職員(生活支援員)が定期的に訪問します。
支援の内容としては、
・福祉サービスの利用援助(基本サービス)(福祉サービスの情報提供や、手続きの方法や利用についての助言など)
・日常的金銭管理サービス(公共料金や家賃など生活に必要な支払いや生活費等の預貯金の払戻し、預け入れなどの支援)
・書類等預かりサービス(預貯金の通帳や権利証、実印など、大切な書類の預かり)
相談や支援計画の作成などの費用は無料です。契約後の生活支援員による支援は有料(1回1時間まで千円程度)です。
ご本人が地域福祉権利擁護事業の契約内容を理解できるかの確認を社会福祉協議会と契約を結ぶにあたって求められています。
任意後見契約や見守り契約、財産管理委任契約では、契約できる判断能力があることが求められていることと比較すると、若干求めている判断能力の程度は地域福祉権利擁護事業の方が低いのかもしれません。
逆に言えば、社会福祉協議会と結ぶ地域福祉権利擁護事業を利用する段階に至っては、任意後見契約などを結ぶことは実際には難しい状況が多いかもしれません。
将来の不安に備えて使うことができる手段について、任意後見契約と見守り契約との2つの契約で対応することを中心に説明しました。任意後見契約や見守り契約などの内容や手続きなどについてご質問がございましたら、お気軽に弊事務所へご連絡ください。
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