認知症高齢者や精神障害者、知的障害者の方が判断能力の低下やその状態に備えるための必要な支援方法として、成年後見制度や任意後見制度、家族信託の利用などが考えられます。
成年後見制度は、任意後見制度や家族信託と違い、家庭裁判所という公的機関が後見人等(後見類型である後見人、保佐人、補助人を含んでいます)を監督することで一定の安全性が担保されています。任意後見制度や家族信託ではこうした公的監督制度はありません。
しかし、公的監督がなされても成年後見制度では不正事例は起こっています。最高裁所事務総局家庭局実情調査には後見人等による不正事例があげられています。
平成23年から令和5年のデータをみてみますと、平成26年が件数、被害額(831件、約56億7千万円)ともピークを示して、以降減少傾向がみられます。令和5年は不正事例件数184件、被害額約7億円でした。不正事例を、専門職後見人等であるか、専門職以外の後見人等(親族)であるかという視点から比較すると、専門職以外の後見人等による不正事例が圧倒的に多い傾向がみられます。
平成26年における成年後見人等と本人(被後見人等)との関係をみますと、親族の選任は全体の約35%、親族以外の第三者(弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職を含む)の選任は全体の約65%でした。令和5年になると、親族の選任は約18.1%、親族以外の第三者の選任は全体の81.9%でした。
成年後見人等と本人との関係を見直すことが、不正事例数や被害額の減少につながっているように思います。
以上より、家庭裁判所の監督により、後見人等に選任される者と本人との関係の見直しなどを通して、成年後見制度の安全性を担保するよう適宜調整されていることが分かります。
任意後見制度や家族信託では不正事例はどのような状態でしょうか。
どちらも公的監督がない制度であることから、実態はなかなか把握しづらい状態といえます。
任意後見人が本人の判断能力が低下したとしてもいつまでも後見人の申立をしないで、財産管理等委任契約を同時に結んでいた場合は好き勝手に金銭を使い込む悪質なケースもあります。また、任意後見契約を一方的に解除してしまう例もあります。
第三者との見守り契約により、任意後見人を監視するという対策はとることはできますが、公的監督がある成年後見制度と比較すると十分とは言えないかもしれません。
すべての制度には長所、短所はあります。本人含め、関係者が納得した上で、一番適切と思える制度を選択していただきたいと思います。
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